![東京六本木。この狭い町で、私は27年バーテンダーをしている。これまで私は、カウンター越しに、たくさんの男女を見てきた。幾つもの夜があれば、幾つもの出会いがある。そして幾つもの恋も。・・・おっと、今日はお喋りが過ぎるようだ。マッカランのロック3杯で酔う年になってしまったとは。まあ良い。今日は特別。ある男女の話をしよう。](/excel-story/images/omnibus/om-story001.jpg)
![東京エクセル物語 シーズンⅠ 総集編](/excel-story/images/omnibus/om-story002.jpg)
![あの子…なんて言ったかな、そうだ「真由美」だ。カウンター右から3つ目が彼女の席。彼女が注文するのはきまってワインクーラー。夜が更けた頃にそっとやって来る。彼女の最初の印象は、どこにでもいるOLだった。だが、何度か話すうちに、私は彼女の「ある趣味」を知ったのだ。](/excel-story/images/omnibus/om-story003.jpg)
真由美の乗ったタクシーは、赤羽橋の交差点に向かっていた。
親友のナオと参加する婚活パーティーがあるからだ。
真由美の趣味は、婚活パーティーで出会った男性のデータをエクセルのシートで管理すること。
彼女のシートにはたくさんの男性のデータが記録されていた。
身長、体重、年齢、血液型、そして・・・年収。
この日も彼女は多くの男性と出会った。
いつも通りエクセルのシートに男性のデータを記録する彼女。
イタズラに「IF」関数を使い、自分好みの男性を探す。
しかし、この夜の彼女は違っていた。
気付いたのだ。頬を伝う涙に。
「・・・私ってホント嫌な女よね。
なんでこうなっちゃったんだろ・・・」
自分好みの条件で検索しても、会った男性の顔を何一つ思い出せない真由美。
いつの間にか窓の外には雨が降っていた。
雨音が真由美の心をなぐさめるかのように、都会の夜は静かに明けていくのだった。
IF関数は、指定した条件を満たしている場合とそうでない場合に応じて、セルに異なった内容を表示させることができます。
条件分岐のために使用されることが多く、Excelの関数の中でも、最も使用頻度の高い関数の1つです。
AND関数は、指定した複数の条件(最大30個まで)を満たしているかどうかをチェックし、すべて満たしている場合は「TRUE」を一つでも満たしてない場合には「FALSE」を表示します。
![エクセル・・・。バーの経営に必要な頼もしきパートナー。生涯のパートナーを婚活パーティーで選ぶ時代だとは聞いていたが、まさかエクセルで男性のデータを管理する女性がいるとは驚いた。エクセルも今では恋のツール、というところか。しかし、器用に見える女性ほど、心に寂しさを宿しているものだ。そう、彼女も例外ではない。・・・私は気付いたのだ。彼女の寂しげな瞳に。](/excel-story/images/omnibus/om-story004.jpg)
真由美の大学時代の恋人、雄介。
研究熱心で優しかった雄介。
真由美は彼との想い出が詰まったノートPCをそっと開く。
デスクトップに飾られた一枚の写真。
よみがえる想い出。
デートの待ち合わせに使った研究室。
雄介が手伝ってくれた試験のレポート。
二人で観た映画。
そして・・・重ねた唇。
幸せだった日々。
「時間学」の研究をしていた雄介は、毎日、Excelのシートに何かの数値を記録し続けていた。
彼はデートの時も研究のことで頭がいっぱいだった。
「デートの時くらい、やめてよね」
「ゴメンゴメン、でも、もうすぐ研究が終わるんだ」
そんなやりとりが日常茶飯事だった。
ある日、真由美はイタズラをしてみる。
雄介が研究で使っていたExcelシートに、「バカ」という文字列を入力したのだ。
研究熱心な雄介でも、データがおかしくなっていれば私の寂しさに気付いてくれる、
そう思っていた真由美。
しかし、雄介は狂ったデータに気付かなかった。
やがて、真由美は雄介に別れを告げる。
自分より研究が大切な雄介と過ごす時間が、彼女の寂しさを募らせていたのだ。
雄介から送られてきた最後のメールも、
真由美は中身を見ず、ゴミ箱へ捨てた。
「色々あったな・・・。」
過去を懐かしく感じながら、想い出のノートPCに触れていた真由美だったが、
何気なく起動したOutlookのゴミ箱に、1件、削除し忘れたメールが入っていることに気付く。
それは、雄介が送ってきた最後のメールだった。
8年間、一度も開かれなかったメール。
そのメールを開いた真由美の瞳から涙が落ちる。
そのメールに添付されていたのは、真由美がイタズラをした雄介の研究シートだった。
「バカ」と書いたセルの横に添えられた、雄介からのメッセージ。
それは・・・彼からのプロポーズの言葉だった。
「私、本当にバカだ・・・」
涙で滲むExcelの罫線が、まるでモノクロームのフィルムのように、
真由美の瞳にいつまでも映っていた。
AVERAGE関数は、指定した範囲や数値の平均値を求める関数です。
SUM関数と同じくらいよく使う関数で、Excelのホームタブ右側にある「Σ」のメニューから指定することができます。
ISTEXT関数は、指定したセルに入力されている対象(データ)が文字列であればTRUEを、そうでなければFALSEを表します。
ISNUMBER関数は、指定したセルに入力されている対象(データ)が数値であればTRUEを、そうでなければFALSEを表します。
![デジタルデータは色褪せない。しかし、色褪せないことが全て素敵なこととは限らない。辛い想い出も色褪せないからだ。彼女がうっかり開いてしまったExcelのシート。これからも彼女の心を縛り続けるだろう。しかし、彼女はその想い出の鎖を断ち切らなければならない。友の力を借りてでも・・・。](/excel-story/images/omnibus/om-story005.jpg)
職場はいつものように慌ただしかった。
淡々と仕事をこなす真由美。
その真由美に話しかけてきた親友のナオ。
真由美とナオには共通の趣味があった。
それは「婚活パーティー」に通うことだ。
真由美が婚活パーティーに通うようになったきっかけも、
Excelのシートに男性のデータを記録するようになったのも、
すべてナオがきっかけだった。
そのナオが真由美に新しいシートを見せる。
そのシートに書かれた「運命の王子様度」の文字。
それは、銀座の占い師の相性診断が入った、ナオの新しいシートだった。
ナオのシートへの情熱に感心する真由美。
そんな真由美にナオは念押しする。
「今日は午後8時から新宿ね!」
そう、この日も婚活パーティーが開かれる日だったのだ。
「いけない!また遅刻!」
真由美はこの夜も婚活パーティーに遅れて到着してしまった。
慌てて会場に入った真由美がぶつかった背中。
振り向いたその顔に、真由美はデジャブを感じた。
(・・・雄介?)
「はじめまして、須磨孝弘と申します」
須磨孝弘と名乗った男性。
どこか懐かしい雰囲気。
その男性に、真由美は無意識のうちに雄介のシルエットを重ねていた。
VLOOKUP関数は、キーとなるコードや番号を使って、参照表から検索して、指定した値(参照表内のデータ)を表示させる関数です。
参照表のデータが縦方向(vertical)に入力されている場合に使用します。
MONTH関数は、セルの内容から月の値を取得する関数です。年は「YEAR」、日は「DAY」を使って取得します。
![出会いは偶然ではなく、必然。人々の心の中には、各々の関数がある。その関数は時にループし、恋は繰り返される。彼女は須磨という男性と出会った。その出会いが、恋のループによるものなのかは、私には分からない。・・・続きを話そう。](/excel-story/images/omnibus/om-story006.jpg)
パーティーで出会った「須磨孝弘」という男性。
雄介の面影を持っていたから?
それとも?
真由美は須磨のことが頭から離れなくなっていた。
「・・・あの人にもう一度会いたい・・・」
「真由美、今度の土曜日空いてる?」
それはナオからの誘いだった。
「今度の土曜日・・・菊池さんとのダブルデートに協力してもらえないかな?」
これまで婚活パーティーに一緒に参加してきたナオ。
しかし、この日のナオはいつもと違ってた。
ナオの瞳がいつになく輝いていたからだ。
「男は年収や学歴じゃないってことに気付いたの」
これまで年収や学歴だけで男性を選んできたナオ。
そのナオから飛び出した予想もつかない言葉。
親友の思わぬ心の変化に戸惑いつつも、微笑ましく感じた真由美は、
ナオからのダブルデートの申し出を引き受ける。
「今回はナオのために一肌脱ぐわ」
どんな相手が来るかなんてどうでも良かった。
親友のナオが喜んでくれるなら。
ダブルデートの日は3日後に迫っていた。
AVERAGEIF関数とは、指定した範囲内で条件に合うものを探し、指定した条件に合致する値の平均値を求める関数です。
COUNTIF関数とは、指定した範囲内で条件に合うデータの数を数える関数です。
![「男は年収や学歴じゃない」本当の恋を知ったナオ。本当の恋を知れば、女性はもっと素敵に輝く。Dear Woman。](/excel-story/images/omnibus/om-story007.jpg)
真由美とナオは遊園地に来ていた。
菊池と仲睦まじそうに話すナオ。
二人を見ている真由美の顔に自然と笑顔が浮かんだ。
「あの二人、本当に楽しそうですね」
真由美に声をかけた男性。
それは須磨孝弘だった。
この日、予想もつかなかった偶然が起きた。
偶然なのか、もしくは、運命のイタズラなのか。
菊池の親友は須磨孝弘だったのだ。
あれほど会いたかった須磨さんが、今、自分の側で一緒に笑ってる・・・
奇跡の出会いに胸をときめかせた真由美だったが、同時に心の中の異変を感じていた。
彼女の中で大きくなっていたのだ。
雄介との想い出が。
その遊園地は、雄介とよく来た遊園地だった。
そして、二人でよく乗ったメリーゴーラウンド。
須磨と乗ったメリーゴーラウンドの中で、
真由美は雄介との日々を思い返していた。
今日、須磨に出会ったのは、
雄介の想い出に
さよならするためだったのかもしれない。
「ROUNDDOWN、雄介との想い出をフラットにして・・・」
真由美の止まっていた時計が静かに動き始めた。
![過去ではなく未来。昨日ではなく明日。想い出の鎖をほどいた彼女は、長い暗闇から抜け出し、新しいスタートラインに立った。この先、どんなことが起こるかは分からない。ただ、人生の先輩として一つだけアドバイスをするなら「精一杯輝いて欲しい」。彼女が乗ったメリーゴーラウンド。その回り方に「三通り」あるということは、あまり知られていない。一つ目は「飛んで飛んで回る」二つ目は「喜び悲しみ繰り返し回る」そして、三つ目は「決して止まらないように回る」例え今、この三つの意味が分からなくても、君にも分かる日が来る。熱い恋をすれば、分かる日が。さて、その後の彼女の話をしよう。](/excel-story/images/omnibus/om-story008.jpg)
「あのシーン、泣けたなあ」
「どのシーン?」
真由美と須磨孝弘は映画館から出てきた。
前回の遊園地のダブルデートから、
1ヶ月が過ぎていた。
その後、二人は何度か逢うようになり、
短い期間の間に、友達以上の関係になっていた。
「孝弘さんのこと、もっと知ってみたい」
それが真由美の素直な気持ちだった。
婚活パーティーで偶然出会った須磨孝弘という男性。
須磨は、雄介の面影を持っていた。
真由美は、須磨に惹かれ始めていた。
それはもしかすると、須磨に対してではなく、
雄介の面影に対してだったのかもしれない。
ただ、須磨と過ごす日々が、雄介との想い出を忘れさせてくれると真由美は思っていた。
「カットをお願いします」
髪にハサミを入れる真由美の姿があった。
雄介が好きだったと言ってくれた髪型。
8年間変えなかった髪型。
その髪型にさよならすることで、彼女は過去の想い出にけじめを付けようとしていた。
少し早い夏の風に、真由美の髪が光を浴びて輝いていた。
その頃、ある空港に一人の男が降り立っていた。
マーキュリー大学 時間学部助教授・・・
相馬雄介
相馬の当然の帰国。
真由美はその事を知る由もなかった。
DATEDIF関数とは、開始日と終了日の期間を、年、月、日の指定した単位で表示する関数です。
業務では、物品の使用期間を計算する際などに便利で、よく使われる関数です。
![・・・相馬・・・?・・・ん?確かこの名前・・・どこかで・・・。♪カランコロン おっと客だ。今夜は少し喋りすぎたようだ。私の語りはこれでお開きにさせていただく。](/excel-story/images/omnibus/om-story009.jpg)
![「いらっしゃいませ」「あ、マスター。今日も来てしまったよ」「いえいえ、お待ちしておりました。相馬様、いつもので宜しかったでしょうか?」「はい、お願いします」「承知いたしました」](/excel-story/images/omnibus/om-story010.jpg)
![「相馬様、最近はいかがですか?日本に戻られてから、大分落ち着いたみたいですが」「そうですね。やっぱり日本は良いですね。最近までずっと海外暮らしだったから、まだちょっと感覚が戻りませんが」「じきに戻りますよ」「ははは、ありがとう」「相馬様、確か以前、日本に戻られた理由をお話になられてましたが、確か・・・人を探しに来たからと仰っておられましたよね」「そうなんです」「探し人はどういうお人でしょうか?」「お恥ずかしい話なんですが、昔の恋人に会いたくて」「昔の恋人・・・ですか」「はい。僕にとって大切な人です」「見つかると良いですね」「ありがとうございます」](/excel-story/images/omnibus/om-story011.jpg)
![to be continued Season2](/excel-story/images/omnibus/banner-to-season02.jpg)