第5話ROUNDDOWNを君に

人々の笑う声が聞こえてくる。

赤やオレンジ、水色、たくさんの色が広がる空間。

私とナオは遊園地に来ていた。

「ねえ、真由美、私の今日の格好変じゃないかな?」

ナオはどこか落ち着かない。

「うん、どこも変じゃないよ」

「そっか、うーん、ドキドキしちゃう」

ナオがそわそわしているのには理由があった。
今日は彼女が想いを寄せている菊池さんとのデートだからだ。

「真由美も楽しみだよね~
菊池さんの友達、きっと素敵な人だよ」

そう、今日は菊池さんが友達を連れてくる。
ダブルデートの日。

婚活パーティー通いの日々の中で、初対面の男性と会うのに慣れたと思っていたけど、
場を改めて会うのって緊張する・・・。

どんな人が来るんだろ・・・。

「あ!
真由美、菊池さんたちよ!」

ナオが声を上げた。

「菊池さーん!」

手を大きく振るナオ。

向こう側にいた男性二人が、ナオに気付き、こちらに歩いてきた。

「ごめんなさい、遊園地なんて久しぶりだから、迷っちゃいました」

背の高い落ち着いた男性が話し始めた。

この人が菊池さん・・・。
優しそうな人だな。

自由奔放なナオにピッタリかも。

「菊池さん、今日はお会いできて嬉しいです!」

ナオが満面の笑顔で菊池さんに話しかけた。

ありがとうございます。
あ、こちらは僕の親友で、須磨孝弘って言います」

菊池さんは隣にいた男性を私たちに紹介した。

「はじめまして、須磨です」

あ・・・

あれ・・・この人・・・

「・・・あ、あの・・・」

「?、どうしちゃったの真由美?」

「あ、確か先日のパーティーで名刺交換を・・・」

「はい、あの時はバタバタとしてしまって・・・。
私、関口真由美と申します」

偶然の出会いに驚いた。
この世に神様がいるとしたら、こんなイタズラってありなの・・・?

「えっ!?真由美と須磨さんって知り合いだったの!?すごい偶然・・・!」

ナオはびっくりした様子で私を見た。

「はい、以前六本木の婚活パーティーで・・・」

「それは、本当に偶然だね」

菊池さんもびっくりした様子だった。

「真由美と須磨さんが知り合いだったなんて嬉しい!
今日は、みんなで楽しい一日を過ごしちゃいましょう!!」

「そうですね、楽しい一日になりそうです」

菊池さんとナオがお互いの目を見合って微笑んだ。

須磨さんもこちらを見て軽くお辞儀をした。


「菊池さん、知ってます?
この遊園地、すごーく怖いジェットコースターがあるんですよ」

「へー、そうなんですね。僕、絶叫マシンが大好きなんです。行きましょう!」

ナオと菊池さんはジェットコースターの方へ走っていった。

二人とも子供に戻ったみたいだ。

「ほらほら~、真由美たちもおいでよ!」

ナオがこちらを見て叫んだ。

いきなりジェットコースターかあ・・・。
ま、いっか。

私と須磨さんも二人についていった。


ガチャン。
安全ベルトが腰まで下ろされる。

この出発前の感じ、いつも緊張する・・・。

私達はジェットコースターの
先頭車両に乗り込んでいた。

「あ・・・あの・・・」

ふいに声がした。

隣に座った須磨さんだった。

「せ・・・関口さんは、ジェットコースターとか大丈夫ですか?」

「うーん・・・正直、絶叫系はちょっと苦手で・・・」

「そうなんですね。実は僕・・・ものすごく苦手なんです・・・。
今も震えが・・・」

「え・・・?」

「なので・・・」

ガタン!

須磨さんが何か言おうとした時、ジェットコースターは動き始めた。

ゴゴゴゴゴ・・・

「うわー、ドキドキしますね!菊池さん!」

「そうですね!さあ、もうすぐ急降下ですよ!」

ナオと菊池さんの息はぴったりだ。

あ、須磨さん大丈夫かな・・・・

「・・・」

須磨さんの顔が・・・
顔面蒼白に・・・・・・!

ガタン!!
ゴゴゴゴゴゴゴー!!

須磨さんの引きつった顔を眺めているうちに、
ジェットコースターは大空のレールへ飛び出していった。


「ふうっ!すっごく楽しかったですね!」

「うん、なかなかスリリングでした!」

ナオと菊池さんのテンションは最高潮。

私達はジェットコースターから降りてきた。

「う・・・・ううん・・・・」

隣でうめき声がした。

「おいおい、須磨大丈夫かよ」

「う・・・少し目が回った・・・だけ・・・・・・心配ない」

「す、須磨さん、大丈夫ですか?」

ナオも心配そうにしている。

菊池さんがハッとした顔で呟いた。

「しまった・・・!須磨が絶叫マシン苦手なのを忘れていた・・・」

「え・・・」

私とナオは須磨さんの方を見つめた。

「ごめんなさい!私がジェットコースターに乗ろう!なんて言ったから・・・」

「須磨さん、大丈夫ですか?」

「あ・・・す、すいません・・・
もう少しで回復すると思いますので・・・・・・うーん・・・」

「ほんとに大丈夫かよ・・・」

菊池さんもナオも心配そうに見つめてる。

「ナオ、私、須磨さんを連れて、あそこのベンチで少し休憩してくるね」

私は須磨さんの背中に手をやった。

「関口さん・・・、す・・・すいません・・・。

菊池とナオさん、僕は少し休めばすぐに回復しますので、
気にせず、他の乗り物に乗ってきて下さいね・・・」

「お、おう・・・」

「ナオ、こっちは大丈夫だから。
他の乗り物の感想聞かせてね」

「う、うん、分かった」

「関口さん、すいません・・・、須磨のこと宜しくお願いします」

菊池さんが申し訳なさそうに、私に謝った。

「大丈夫ですよ。元気になった須磨さんと一緒に、あとで合流しますね」

私は二人にお辞儀をして、
苦しそうな須磨さんと一緒にベンチへ移動することにした。

男性に自分の肩を貸すのは二度目ね・・・。


「須磨さん、あそこにベンチがありますから、
あのベンチで休みましょう」

「す、すいません・・・。なんか情けないなあ・・・・・・」

「いえいえ、
男の人でも絶叫系が苦手な方って多いですよ」

私と須磨さんはベンチに腰掛けた。

自販機でペットボトルのお茶を買った私は、須磨さんに手渡した。

ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ

「ふう・・・、なんだかマシになりました」

「良かったです」

須磨さん、絶叫マシンが苦手な体質って、雄介と同じね。

私はいつしか雄介の姿を須磨さんに重ねていた。

「大分元気になりました。ありがとうございます」

「いえいえ、私もホッとしました」

私がそう言うと、須磨さんは微笑んだ。

「実は人生で苦手なものが3つあるんですが、
そのうちの一つがジェットコースターなんです・・・」

「えっ!?そんなに苦手だったのに、どうして乗られたんですか?」

「もうこの年なら大丈夫かな・・・なんて思いまして。
でも、苦手なものって、そう簡単に克服できないものですね」

ははは、と須磨さんは笑った。

「そうだったんですか・・・。
でも、それって、自分の苦手なものに果敢にチャレンジしたってことですよね」

「そう言われると、なんだか名誉の負傷みたいに思えてきました・・・」

「ふふふ」

「ははは」

柔らかい風が吹く。
なんでだろ、須磨さんと話していると落ち着く。

「あ、須磨さん・・・って、今どんなお仕事をされているんですか?」

私は須磨さんのことを聞いてみたくなった。

「あ、今はIT企業で解析の仕事をしています」

「なんだか難しそうですね」

「いえいえ、難しくないですよ。
例えば、どう言えば良いだろ・・・。
あ、そうだ、Excelも触ったりしてますよ」

「Excel、よく分かります。仕事でいつも使っているので・・・」

「そうなんですね。もしかして関数とか使っちゃったり・・・?」

「はい。VLOOKUP関数とか・・・あとはCOUNTIF関数とか・・・」

「すごい!使いこなしてらっしゃるじゃないですか!」

「あ、いや・・・その・・・・・・まだ知らない関数が多くて・・・」

そう言いながら、私は「しまった」と思った。

関数を使ってるのって、仕事じゃなく、
婚活パーティーのシート編集だから・・・。

「よしっ、大分元気になりました」

「あっ、もう大丈夫ですか?」

「はい、ご心配をおかけしてすみませんでした」

「いえいえ。

じゃあ・・・せっかくなので、何か乗り物に乗ります?」

「そうですね」

「そういや、菊池とナオさんはどこ行ったんだろ」

「そう言えば・・・」

そう言いながら遠くを見た私たちは、
ナオと菊池さんが絶叫マシン「スーパーフォール」に乗っていることを確認した。

「あの二人、また絶叫マシンに乗ってるみたいです・・・」

「えっ・・・」

「わ、私達は、もう少しソフトな乗り物にしましょう」

「そ、そうですね」


私と須磨さんは園内を歩いていた。

「遊園地って、たくさんの人の想い出が詰まっている場所ですよね」

須磨さんは話し始めた。

「どんなに辛いことがあっても、遊園地に来れば忘れられる。
辛い想い出や、悲しい想い出も、全部、フラットな想い出にしてくれる」

私は須磨さんの話す言葉を聞きながら、歩いていた。

「あれ・・・」

ふと私の目に、ある乗り物が映った。

「メリーゴーラウンド・・・」

メリーゴーラウンド。
私にとって忘れられない想い出の1ページ。

「子供の時よく乗りました」

「私もよく乗りました。
メリーゴーラウンドって、懐かしい気持ちになりますよね」

「あれなら大丈夫そうですね(笑)。乗りましょうか?」

「え、あ・・・、はい」

せっかく遊園地に来たんだもの。
楽しまなくちゃ!

私と須磨さんはメリーゴーラウンドのチケットを買った。


プルルルルル・・・

場内に出発の音楽が流れ、
メリーゴーラウンドが静かに動き出す。

懐かしい・・・。

あの頃、雄介とよく遊園地に来たっけ。

二人で乗ったメリーゴーラウンド・・・。

「関口・・・さん?」

隣の馬に乗った須磨さんが声をかけてきた。

「涙が・・・」


「本当にごめんなさい・・・ちょっと色々思い出しちゃって」

「大丈夫ですよ。それより・・・
なんだか辛いこと思い出させちゃったみたいでごめんなさい」

「そんな・・・、須磨さんは悪くないですよ」

「女性の過去の話を聞くなんて、野暮なことはできないんですが・・・、
あ、そうだ、こんなお話知ってます?」

「・・・?」

「メリーゴーラウンドとExcelの関係」

「えっ・・・?何か関係あるんですか?」

「メリーゴー"ラウンド"。
Excelの関数にはラウンドダウン(ROUNDDOWN)っていう関数があるんです」

「ラウンドダウン・・・?」

「その関数はね、数字を切り捨てて、値を揃える関数なんです」

「切り捨てる?」

「切り捨てるっていうと、ちょっと響きは悪いかもしれないんですが、
想い出をフラットにする力もあるんですよ」

「え?」

「1と0の間には、たくさんの数字があります。
0.1だったり、0.01だったり、0.007だったり。
そう、生きていく上では、たくさんの辛い想い出がある。

だけど、そんな時、ROUNDDOWN関数を使えば、
辛い想い出をフラットにすることができるんです」

「想い出を・・・フラットに?」

「まあ、本当はそんな使い方をする関数じゃないんですが、
どれだけデコボコした道も、ROUNDDOWNを使ってフラットにしてあげると、
真っ直ぐな道になるんですよ」

「真っ直ぐな・・・道・・・」

「だから、辛いときはラウンドダウン関数です。
ラウンドアップ関数だと、想い出を乗り越えてハイになっちゃいますから(笑)」

そう言うと須磨さんは笑った。

私もつられて微笑んだ。


「今日は本当に楽しかったよね~!」

「うん、楽しかった」

ナオと菊池さんは
すっかり意気投合した様子だ。

やっぱりこの二人はお似合い。
菊池さんなら、ナオをしっかり受けとめてくれそう。

親友として嬉しくなった。

「もうすぐ閉園ですね」

「あ、ほんとだ!けど、あと20分あるよ」

「みんな、最後に乗りたい乗り物はない?」

菊池さんがみんなに聞いた。

「あの・・・・・・私・・・」

「あ、真由美、もしかして乗りたい乗り物ある?」

「私、メリーゴーラウンドに乗りたい」

「関口さん・・・」

須磨さんが隣で私を見つめてくれてる。

「メリーゴーラウンド!いいね!
遊園地に来たからには乗らなくちゃ!」

「私もメリーゴーラウンド大好き!」

菊池さんとナオはOKみたいだ。
須磨さんは・・・

「よし、乗ろう!夜間だし、きっとライトアップされてて綺麗だよ」

「ライトアップ~!」

「行こ!行こ!、ねっ、真由美!!」

「うん!」

私達はメリーゴーラウンドへ向かって走っていった。


須磨さんに教えてもらった、ROUNDDOWN関数。

今日、須磨さんに出会ったのも、雄介の想い出にさよならするためだったのかもしれない。

回るメリーゴーラウンドの中で、真由美は雄介との日々を思い返していた。

ROUNDDOWN、雄介との想い出をフラットにして。

真由美の隣に、優しく見つめる須磨の瞳があった。

今回の関数

ROUNDDOWN関数で、小さなことにくよくよする日々からさよならしませんか?

例えば「昨日は0.2Kg増えた、今日は0.3Kg減った・・・」
なんてことでくよくよしていませんか?

毎日何かを記録している方へ送りたい「ROUNDDOWN」関数講座、今回はダイエット編です!

「ROUNDDOWN」関数を使って、モチベーション高くダイエットを続けませんか?

ROUNDDOWN(ラウンドダウン)=ROUNDDOWN(数値,桁数)

ROUNDDOWN関数とは、指定した桁数で数値の端数を切り捨てる関数です。
消費税計算などの端数処理に使うと便利です。

※桁数は端数を切り捨てた結果の桁数を指定します。
※桁数の指定は、下記のような規則に従い、数値を入力して行います。

元の数値 桁数 ROUNDDOWN処理後
86.251 -2 0
86.251 -1 80
86.251 0 86
86.251 1 86.2
86.251 2 86.25

【類似する関数-ROUND系】

ROUNDUP(ラウンドアップ)=ROUNDUP(数値,桁数)
ROUNDUP関数とは、指定した桁数で数値の端数を切り上げる関数です。

ROUND(ラウンド)=ROUND(数値,桁数)
ROUND関数とは、指定した桁数で数値の端数を四捨五入する関数です。

【類似する関数】

TRUNC(トランク)=TRUNC(数値,桁数)
TRUNC関数とは、指定した桁数で数値の端数を切り捨てる関数です。

INT(イント)=INT(数値)
INT関数とは、数値の小数値部分を切り捨てて整数にする関数です。

※切り捨てる対象の数値が負の数の場合には、元の数値を超えないように切り捨て処理されるので注意が必要です。
例:INT(-8.6)は-9と表示されます。

ROUNDDOWN関数を使って“心にやさしい”ダイエットグラフを作る

体重が記録されているD列のとなりのE列に「ROWNDDOUN」関数を使った式を入力し、下方向へフィルコピーします。

例:=ROUNDDOWN(D24,0)

グラフに表示するデータを変更する

グラフに表示するデータを変更する

「ROUNDDOWN」関数を使って、端数を切り捨てたデータ「体重RD」ができたら、グラフの表示範囲を下図のように変更してみましょう。
小数点以下の変化は表示されなくなるので、もう小さな増減に一喜一憂することもありません。

グラフに表示するデータを変更する

各関数の処理内容をグラフで確認

体重=実数値、体重RD=ROUNDDOWN関数で処理(端数切捨て)
体重RU=ROUNDUP関数で処理(端数切り上げ)
体重R=ROUND関数で処理(四捨五入)

そうすれば、下記のようなグラフが表示されます。

各関数の処理内容をグラフで確認

これでダイエットもバッチシです!

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